【石物語】いじわるじじいは死んだー翡翠

いじわるじじいは死んだー翡翠
朗読動画

「おい、おめぇひょっとするとお釈迦様でねが?なしてこんたどごさいだのよ。

んだども、お釈迦様にしては、この金箔の質あまりいぐねぇなぁ。

おらどごさある金箔の壺のほうが高ぐって質もいいで。」

(おい、お前はひょっとするとお釈迦様ではないか?なんでこんなところにいるんだ。

しかし、お釈迦様にしてはこの金箔の質はあまりよくないな。

俺の所にある金箔の壺の方が高くて質もいいぞ)

「私はお釈迦様からあなたに伝言をお預かりしているので、

それを伝えるためにやってきた遣いでございます。

お釈迦様によると、あなたはケチで、強欲で、意地悪で、

このままでは村の人々があなたのせいで飢え死にをしてしまいます。

一刻も早くその性を改めなければ、お前は一生小人のままで人生を過ごすことになるぞ。

一生小人であるならば、お前は地獄行きだ。

だそうです。」

「なんだって?地獄行きだぁ?!それはどういうごどなんだ。

おらほど素晴らしい人など、どごさもいね!

おらのどごがケチで強欲でいじわるなんだ。

村の人だっておらのおかげで食っていげるのなんだ。

村の人なば、いっつもおらさ感謝してるのだで。

おめも、お釈迦様も少しおらのごど、敬え!」

(なんだって?地獄行きだぁ?それはどういうことだ。

俺ほど素晴らしい人なんてどこにもいない。

俺のどこがケチで強欲でいじわるなんだ。村

の人だって俺のおかげで食べていけるのだ。

村の人はいつも俺に感謝しているのだ、お前も、お釈迦様も俺のことを少しは敬え)

「あなたは何も解されておりません。私は役目を終えたのでこれで失礼いたします。」

おお~夢かぁ。なんだがおがしい話の夢だなぁ。

んだども、まんず不思議な夢だった。どでんした。

(なんかおかしい話の夢だなぁ。でもとても不思議な夢だった。びっくりした)

「さて、飯でも食って仕事さいぐべぇ。

そういえば最近肉食ってねぇな。魚ばかりだったからな。

よし、今日は牛のいる家さ取り立てにいくべ。」



「おめよぉ、いい加減金返せ!!なんぼ待ってやってるど思ってるなだ!!えぇ?!」

(いくら待ってあげていると思っているのだ)

「す…すいません、村長さん…。でも……。」

「でもなんだ?! 文句でもあるんだがぁ?!

俺から食わせてもらっている分際でよぉ、おめ死にでんだがぁ?!」

「す…すみません!!どうかお米だけは取らないでください。お願いします…。」

「三カ月だで、三カ月!!

半年以上借りっぱなしだったらただじゃおかないからな。わかってるな?」

「は、はいっ、申し訳ございません!!」

「…そういえばおめの家さ確か牛いだったな。へば、その牛どって借金の利子にしてけら。

有難く思え。」

(そういえばお前の家に確か牛がいたな。そしたら、その牛を利子にしてやろう。)

「牛をですか!?それは困ります…

牛がいなければ仕事もできないし乳を出すものもなくなってしまいます!」

「利子を牛ごときでまけてやるのだぞ、文句あるはずねべ!

よし、じゃあ牝牛はまけてやろう。その雄牛はもらっていくぞ。」

そう言ってじじいはこの農民から牛をぶん取ってしまったのです。

「あぁ!モウタ、モウタァァァ~~~!!!」



どれぐらいの年月が経ったでしょうか、

ずうっと前から農民はこのじじいのせいで苦しい思いを強いられてきました。

ですから、じじいに寄り付くものは誰一人としていません。

いつも一人で閑散とした空白を抱きつつ、

それを解消する術もなくただただ物欲に任せて金儲けばかりのことを考えていました。

 じじいには昔、妻がいました。

じじいにとってはそれはそれはもうかわいくて、家事もよくこなし、

気立てのよい思いやりのある妻で、どんな宝にも代えがたいものでありました。

しかし、その妻はわかくして不治の病にかかり、亡くなってしまったのです。

 じじいは、一人、豪勢な家と物に囲まれ、暮らしています。

唯一、妻の仏壇には、生前妻が愛用していた翡翠の数珠だけが、

じじいの孤独を和らげてくれていました。

 じじいは、目覚めた朝からあの日のことが気になっていました。

「ほんっとにこのおらが小人だってどういうことだ!?まったくおがしい夢だなぁ~。」

(まったくおかしな夢だなぁ~)

 じじいは今朝仕入れたばかりの牛肉を頬張りながら悶々と考えていました。

悶々と考えているうちに牛肉がなんとなく生臭くドロドロしたような感触がして、

じじいは食べるのをやめました。

そして、ひっそり閑とした自分の家を見渡しました。

手入れがされていない炭櫃、なんでも入りっぱなしの物置、寒々とした居間、誰も訪れない玄関。

「おらは、ひとりなんだなぁ……。なぁ 、 ……。」

その言葉は、朽ち葉が飛ばされるかのように虚しく響いて消えました。

それと同時に、途方もなく悲しくなりました。



「さて、今日も仕事さいぐべ。

今日は五作の家さ借金の取り立てだな。

まったぐ、期限まで返さねでおらを何様だどおもってるんだ。」

(まったく、期限まで返さないで俺を何様だと思っているんだ)

「おめよぁ、いづまで金借りてる気だ!?とっくに期限なば過ぎてらぞ!!」

(お前、いつまで金借りている気だ?!とっくに期限は過ぎているぞ)

「本当に申し訳ねぇ、ごめんしてけれ…、どうかお願いします!!

女房が病気でどうしても薬代が必要なんだす。お願いします!!この通りだ!!

おらは女房が助かれば自分は死んでもかまわねぇ!

んだども、女房がこのまま死んでしまったら、おらは死んでも死にきれねぇ!!

この通りだす!!」

「そんなこと言っても期限は期限だ。三日までに払わねば家ごとかっさらってぐがらな!!」

じじいは、涙を流し土間におでこをこすりつけて土下座をする五作を無視してそう言い放った。そして、そのまま帰ってしまいました。

家に帰ったじじいは、仏壇の翡翠を見つめながら今日の五作の言葉や態度を頭の中で何度も何度も反芻しました。

「生きていたらなぁ …… 」

 じじいは不意に妻が死んだあの時の最後の言葉を思い出しました。

「あんた、おらはな、いっつもあんたのそばさいで見守っているがらな。だがら、そんなながねぇで。

おらは、幸せだな………。」

―そうだった。おらは、いっつも見守られでらったんだな。おらは今までなにやってらったのだべ。ごめんな、こんな情けねぇ男で…!


じじいは、五作を助ける決心をしました。

 ちょうど、隣町で中国の李完清と名乗る名医がやってきたとうわさで聞いていたので、

隣町に行ってみることにした。

「私が中国から来た李完清だ。何の用だ?」

「助けて欲しい人がいるのです。今すぐ隣の村まで来てください。馬をあちらに用意しています。」

「わかった、それでは案内してもらおう」

「村長さん、こ、これは一体どういうことですか?!」

「こ、これは…まず、そんなことは後でいい!!

李完清さん、この女です。診てやってください、お願いします」

「あぁ、  これは中国でもはやっている伝染病と栄養失調だな。

この伝染病の薬はあるんだが、とても高い。どうする?」

「大丈夫だ、金ならいくらでもある。今すぐ女に飲ませてやってくれ。」

「わかった。」



李完清の薬のおかげで、五作の妻はすっかり元気になりました。

じじいは李完清の薬を買ってたくさんの財産を失いました。

しかし、じじいは今はそんなことなど頭の中にありません。

五作が妻を抱きしめながら嬉し泣きしている姿がずっと脳裏に焼き付いています。

「いがったなぁ、五作…」

「んだなぁ、喜んでらっけな。」

 じじいがひっそり閑とした居間に独り言をつぶやくと、

仏壇の翡翠の元から、ずっとずっと聞きなれたぬくもりのある声がそこを包んでいた。

「やっぱり、おらは幸せ者だなぁ。」

「お…おめぇ…!」

「寂しい思いさせで本当にごめんな。

んだども、とうとうあんたのごど迎えに来るときが来たんだ。

これがらはずっといっしょだがら、なんも寂しい思いしねくていがらな。」



五作は、じじいにお礼を言うために、じじいの家に訪れた。

「村長さん、村長さん、借金と薬のお礼を持ってきました。村長さん、いませんか?」

「留守なば、土間さ置いで後でまたお礼さ来ようが。」

(留守だったら)

「んだな、村長さんが薬買ってけねば、いまおめがいねがったがもしれねぇ。

本当一生お礼をしても足りねぇ。ありがでぇごどだ。」

 五作と五作の妻は、土間にお金とお礼のものを置いて帰ろうとしたその時、

なんとじじいが倒れているのを見つけました。

もう息はありませんでした。

翡翠の数珠を握りながら、居間で息絶えているじじいの顔は、穏やかでした。

「あー村長が死んで本当に安心したなぁ。」

「んだんだ、まんずあれなばだめだったなぁ、早ぐ死んでけねがなど思ってらった。」

「おらも、村長にモウタが殺された時は、なんとやって襲ってやろうがど思ってらった!」

「そういえば村長の葬式、五作の家であげだんだよな。」

「んだんだ、なしてだんべな。」

「なぁ」

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